準深海サンゴ環境DNA

概要

サンゴ類の多くは光合成を行う褐虫藻と共生します(有藻性サンゴ類、ホームページを参照)。褐虫藻が光合成するために光が必要であり、必然的に有藻性サンゴ類は光の降り注ぐ水深約1mから20mまでの浅瀬で活発に繁殖します。一方で一般的にサンゴ礁はさらに深く、30m、40m、60mと繋がっています。当然深くなるにつれて光は届かなくなり、水深30-150mのサンゴ礁はmesophotic coral reefs (中程度の光が届くサンゴ礁 : MCR)と呼ばれています。MCRを表現する適切な日本語がないため、我々はこれを準深海サンゴ礁(もしくは准深海サンゴ礁)と呼んでいます。準深海サンゴ礁は特殊な装置をつけた潜水や水中ロボット(遠隔操作探査機:リモート・オペレーション・ビークル)などを使って調査されています。準深海サンゴ礁の重要性については、例えば白化などでダメージを受けた浅瀬のサンゴ礁へ次世代の幼生を提供するのではないかという意見も出されています。しかし、準深海サンゴ礁は浅瀬のサンゴ礁に比べるとまだ不明な点が沢山残されています。

環境DNAとは?」の項で述べたように、私達が開発した有藻性イシサンゴ環境DNAメタバーコーデイングシステム(Scl-eDNA-M-JPN)は浅瀬のサンゴ礁でのサンゴの検出・同定には有効ですが、サンゴ礁の深さが20m、30mと増すにつれて検出感度が落ちてきます。サンゴ礁全体を理解するためには浅瀬から準深海までのひと続きのサンゴ礁を調べる必要があります。そんな折、NTTドコモ社が、採水機を搭載した水中ドローンを開発しつつあり、準深海サンゴ礁の調査研究をドコモ社とOISTの共同研究として実施する機会を得ました。つまり、水中ロボット探査法と環境DNA法の両方の利点を活かした研究方法の開発・確立です。このアトラスでは準深海サンゴ礁の環境DNA法の研究開発に沿って慶良間諸島、沖縄島本部沖、恩納沿岸、平安座沖での調査結果を解説します。

関連論文

この調査に属する地点数合計: 57

慶良間諸島
慶良間諸島
地点数: 24
緯度: 26.20479667
経度: 127.2712908

慶良間諸島の海は“ケラマ・ブルー”と呼ばれる高い透明度を誇ります。諸島間の海流は地域により異なりますが、それなりの速さがあります。こうした環境は採水機を搭載した水中ドローンを船上で制御して準深海のサンゴ礁から海水を採水できるかどうかを試す機会を与えてくれます。そこでまずFIFISH V6Plusというミニ水中ロボット2台(1台は採水機を搭載して採水、もう一台はその採水機の動きを観察)を使ってその可能性を確かめました(図1)。採水機は注射器の原理を利用しており、採水が行われると、採水機中の空気が泡となって排出されます(KE-Video1−4)。その結果、この装置が準深海のサンゴ礁の海水を採水できることが分かりました。現在の機種は、さらに機能が一段アップしたFIFISH W6Plusにかえ、採水機の改良やバッテリーの改良を加えた方法を利用しています。これらの研究技術の改良・開発については下にあります関係論文の岡田ら(2024)を参考にしてください。 そこで、慶良間諸島の6地域24地点(水深0〜80 m)において採水を行い、サンゴ環境DNAが検出可能かどうか、また水深によって出現するサンゴ属に違いがみられるかどうかを調査しました。

沖縄島本部町沖
沖縄島本部町沖
地点数: 4
緯度: 26.67331455
経度: 127.8631025

採水機を装備した水中ロボットを使った最初の実験を海水の透明度が高い慶良間諸島において行い、この方法の有効性を確かめることができました(「準深海 慶良間諸島」を参照)。この調査では船上のモニタリングカメラに映るサンゴ礁の映像から、ドローンを落とした準深海に棲息するサンゴ属をおおよそ推測でき、また環境DNAの解析からそれに相当するサンゴ属のデータが得られました。しかし、サンゴ類の確実な分類同定情報がない限り、この方法の妥当性を示すには幾分問題があります。この問題を解決するためには、サンゴ専門家ダイバーが実際に準深海のあるサイトで生息するサンゴを目視調査によって確認・同定した場所に水中ドローンを落とし、そこから採水した環境DNAでそのサンゴ属が同定できることを確かめる必要があります。そんな折、琉球大学の波利井佐紀博士とフレデリック・シニガー博士の研究チームが沖縄島本部沖に準深海サンゴの調査研究フィールドを持っており、比較的浅めのシゲオリーフ(水深約40m)ではトゲサンゴ属(Seriatopora)が、また深めのシゲオリーフ(水深約55m)ではアワサンゴ属(Alveopora)が優占しているということを知りました。そこで、2023年4月25日に、両博士の協力を得てこの二つの準深海サンゴ礁から採水調査を実施しました。なお、本調査で使った水中ドローンはFIFISH W6 Plusで、二つの採水機(500 mL採水可)を搭載しています。(図1)

沖縄島恩納村沖
沖縄島恩納村沖
地点数: 17
緯度: 26.4886643
経度: 127.8299436

恩納村沿岸を航空写真で見ると(図1A)、残波岬の北東部からブセナ海中公園までのおおよそ32kmに渡り、沖縄の言葉でいう“イノウ”(礁地:サンゴ礁に囲まれた浅瀬)が続いています(薄青の領域)。前兼久付近のイノウの中央部はほぼ砂地で、ここでモズクの養殖などが行われています(イノウがもたらす恵みの一例です)。場所によって景観は異なりますが、イノウの先端に岩礁部があり(薄い茶色で見えている)、サンゴ礁がここから始まっているケースが多いです。そしてそこから徐々に水深が増していき濃紺の部分は水深10-200mほどです。そしてさらにその外側で急に海は深くなり薄い青色の深海へと繋がっていきます。岩場の礁池では大きく育ったミドリイシやコモンサンゴをはじめとした枝状サンゴ、テーブル状サンゴなどのサンゴを見ることができます。さらには真栄田岬にある“青の洞窟”や万座毛下のサンゴ礁は、沖縄を代表するダイビングスポットの一つとなっています。 恩納村沿岸浅瀬のサンゴ礁はどのくらいの深さまで続いているのでしょうか。我々は2022年の秋に残波岬下から恩納村前兼久前まで、また2023年春に前兼久前から万座毛付近、さらに2023年秋には瀬良垣付近から部瀬名まで、数回にわたり準深海サンゴ環境DNA調査を行いました。 全体的に環境DNA解析は現在も進行中ですが、万座毛北西での結果を水中ドローンの映像を使って簡単に説明します。

沖縄島東海岸
沖縄島東海岸
地点数: 12
緯度: 26.26631934
経度: 127.9741453

恩納村沿岸を含む沖縄島中部の西海岸は、近くに大きな島が存在せず、比較的直線的な海岸線が広がっています。一方、東海岸中南部には、南の久高島から北の津堅島、浜比嘉島、平安座島、宮城島、伊計島へと比較的大きな離島が点在しています。これらの島々の間、とくに平安座島沖では、比較的なだらかな岩礁地形が広がっています。私たちは、浅瀬から水深約40 mまでサンゴ礁が続き、その後50 m付近からガレ場や砂地へと変化していく西海岸とは異なり、この海域では準深海サンゴ礁が発達している可能性があると考え、2025年6月4日から6日にかけて調査を行いました。