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環境DNAで読み解く、琉球列島サンゴ礁の現在

概要

サンゴの研究はこれまで研究者によるスキューバダイビングなどによる直接目視観察を中心に進められ、サンゴの分類や生態などについて多くの知見が得られてきました。しかし、潜水研究調査にはいくつかの限界があるため、それらを補完しより広範で、かつ分類学的に高い精度を持つ手法として、サンゴ環境DNAメタバーコーディング(eDNA-M)法を開発し、確立しました。これにより、琉球列島の多くのサンゴ礁における有藻性イシサンゴの実態が明らかになりつつあります。

本来、このようなデータは公開され、誰もが自由に閲覧・利用できるようにすべきものです。サンゴ礁研究の現状を踏まえ、本アトラスでは、サンゴ環境DNAデータを広く公開いたします。

沖縄島をはじめ、琉球列島の12の島・海域における環境DNAデータはすでに取得済みであり、また残る地域についても順次調査・公開を進めていく予定です。まず第1報として、沖縄島から石垣島までの12の島・海域のデータをここに公開いたします。それぞれのサイトにアクセスし、ご覧ください。

関連論文

本アトラス作成機関

沖縄科学技術大学院大学(OIST)
(一財)沖縄県環境科学センター


COI-NEXT COI-NEXT
OIST Coral Project OIST Coral Project

サンゴとは

サンゴ(花虫類)はクラゲ(鉢虫類)、ヒドラ(ヒドロ虫類)、イソギンチャク(花虫類)と同じ刺胞動物の仲間です。刺胞動物はみな刺胞と呼ばれる餌を刺し殺す装置を持っているのが特徴です。中でもサンゴはこの他に非常に特殊な能力を持つため、私たちはサンゴを“スーパー動物”と呼んでいます。なぜ海の“スーパー動物”か?

サンゴはサンゴ礁と呼ばれる岩礁を作ることができます(後述)。サンゴ礁は紅海などの熱帯から琉球列島のような亜熱帯まで、赤道を挟んで広く分布しています。サンゴ礁は地球の海洋のわずか約0.2%を占めるに過ぎません。しかし、海で生活する生物種の約30%がそこに生息する生物多様性の宝庫です。漁業、観光、文化など地域の人と深い繋がりをもち、例えば沖縄で2500億円/年の経済効果(2023年度)があったと言われています。


なぜ海の’スーパー動物’か?

サンゴには沢山の種類がいますが、そのほとんどが六方サンゴの仲間のイシサンゴ(Scleractinia)です。またイシサンゴの多くは光合成能力を持つ褐虫藻(渦鞭毛藻類)を体の中に取り込んで共生生活をしています。こうしたサンゴを有藻性イシサンゴ(zooxanthellate scleractinian)と呼んでいます。サンゴは褐虫藻に安定した生活場所を提供し、サンゴは褐虫藻が作る栄養分を利用して生きていると考えられています。共生褐虫藻が光合成を行うためには太陽の光が必要で、サンゴの多くは浅瀬で繁殖しています。

このサンゴと褐虫藻の共生関係は歴史的に古く、切っても切り離せないものになっています。つまり、高温や強い紫外線によってサンゴにストレスが掛かると褐虫藻はサンゴから逃げ出し、サンゴは褐虫藻由来の褐色の色合いを失い白くなります。これを“サンゴの白化”と呼びます。白化の期間が短く褐虫藻がサンゴに戻って来てくれると白化は収まり、サンゴは再び元気を取り戻しますが、白化が長く続き褐虫藻が戻ってこない場合、サンゴは死滅してしまいます。

サンゴはさらに炭酸カルシウム(CaCO3)でできた骨格を作ることができます。さらに無性発生と言って、体の一部(例えばエダサンゴのエダ)を無性的に(つまり受精・発生なしで)どんどん増やしていくことができます。そのため2~3mをこすような大きなサンゴコロニー(群体)を作ることができます。そしてこれらの能力を活用して、サンゴ礁(coral reef)を作ります。またこうして礁を作りあげていくサンゴを“造礁サンゴ”と呼んでいます。
このサンゴ礁を作りだす能力の凄さこそが“スーパー動物”の由来です。

サンゴ礁は大きく広がります。例えばオーストラリアのグレート・バリア・リーフは宇宙から識別できるほど大きく、日本では宮古島そのものはサンゴ礁が隆起してできた島です(島を作りだせる動物が他にいますか?)。沖縄本島の南部(那覇市や沖縄市)もサンゴ礁の上に大陸から流れてきた砂が厚く堆積した地質学的構造になっています。つまり、沖縄に住む人たちの多くはサンゴが作ってくれた土地の上で生活していることになります。

しかしながら、近年の地球環境の悪化、特に浅瀬の海水温の上昇、オニヒトデの異常な増殖による食害、赤土の流出などによりサンゴ礁が徐々に失われ、その消滅の危機が世界中で指摘されています。このままの地球温暖化が続けば10年・20年後にはサンゴ礁の1/3がなくなるのではないかと。海の生物の多様性消滅の危機であり、健全な地球環境の維持にとっては大問題です。 そのために世界規模で今あるサンゴ礁を把握し、失われつつあるサンゴ礁を保全し、再生する動きがサンゴ礁に囲まれた多くの国で加速しています。





従来の調査方法と新しいアプローチ

上記イメージ図の作成: OpenAI. (2026). ChatGPT (Mar 03, GPT-5.3 Instant) [Large language model].

サンゴの研究はこれまで研究者によるスキューバダイビングやシュノーケリングを用いた直接目視観察を中心に進められてきました。サンゴの分類や生態などについて多くの知見が得られてきました。しかし、サンゴの研究は非常に難しいのです。まずサンゴの分類そのものが難しい。日本には約83属400種のサンゴがいると言われています。サンゴの形態は複雑で、基本的には骨の形で判断するのですが、結構形態の変化があり、潜水しつつサンゴ礁で生きているサンゴを正確に分類するのは非常に難しいといえます。

また一方で、潜水して調査すること自体にもいくつかの限界があります。スキューバダイビングは専門家の技術にもよりますが、1回の潜水は30分から1時間程度です。また調査できる水深も20 mほどが一般的で、深くなるほど調査可能時間は短くなります。場所にもよりますが、1回の調査で83属のうち、目視で確認できるのは20属程度でしょうか。

OISTマリンゲノミックス研究室では東京大学の研究者たちと共同で目視調査を補完し、より広範かつ分類学的に高い精度を持つサンゴの生息実態を調査する手法として、サンゴ環境DNAメタバーコーディング(eDNA-M)法(Scl-eDNA-M-JPN法)を開発し、確立いたしました。つまりサンゴ礁の表面海水に含まれるサンゴの環境DNAを調べることにより、沖縄に棲むサンゴ83属の全てを同時に検出し同定できるという画期的方法です(後述)。


サンゴ環境DNAアトラスの公開

この方法を使って、沖縄諸島の多くのサンゴ礁における有藻性イシサンゴの生息実態が明らかになりつつあります。 本来、このようなデータは公開され、誰もが自由に閲覧・利用できるようにすべきものです。こうしたサンゴ礁研究の現状を踏まえ、本アトラスではサンゴ環境DNAデータを広く公開いたします。 沖縄島をはじめ、琉球列島12島における環境DNAデータはすでに取得済みであり、まず第1報として、沖縄島を含む12島のサンゴ礁環境DNAアトラスをここに公開いたします。 このサイトでは、サンゴ礁の生態調査および環境DNA調査によって得られたプロジェクトデータを公開すると共に、沖縄県環境科学センターによって撮られた目視調査による写真が存在する場合には、それらも掲載しています。リンクから各データセットをご確認ください。